2011年05月28日

五十歩と百歩 4 だるまさん戦争(3)【帳消し】

 ある百歩逃げが振り返ると、たくさんの五十歩逃げが嗤っていました。そのなかに、指さして嗤った奴がいましたが、指さすという動きが敵に見えたのか、とたんに被弾しました。
 百歩はなんとかその五十歩まで戻り、「なぜ嗤う」と尋ねたいと思いました。
しかし、一回に自分は百歩進んでしまうので、五十歩ずれた場所で動けなくなったそいつのところには行けないのです。

「だるまさんがころんだっ!」
 仕方なく、百歩はその五十歩の脇を通り過ぎながら聞きました。
「なぜ嗤った」
 そして次の「だるまさんがころんだっ!」で戻りながら答えを聞きました。
「足が速い奴は逃げたら罰金も倍かよと思ってさ。」
 そしてその五十歩は死んでしまったようでした。

「だるまさんがころんだっ!」
 百歩逃げは、別の五十歩逃げに追いつき聞きました。
「なぜ嗤った。」
「べつに。退屈だからかな。」

「だるまさんがころんだっ!」
 嗤った奴かどうかわかりませんでしたが、さらに別の五十歩逃げをつかまえて聞きました。
「おまえ、さっき俺を嗤っただろう。」
「さあね。だるまさんがころぶたびに、なにもかも忘れるんだ、俺は。」

「だるまさんがころんだっ!」
 嗤った五十歩逃げたちは、ちりぢりになり、百歩逃げはさみしく戦場を行ったり来たりしました。もう誰ひとり嗤ってくれませんでした。

「ぐわわーん! だるまさんだるまさん、あっぷっぷぅ!」

 すさまじい銅鑼の音が鳴り響き、本日の戦場が終了しました。

 戦場は一瞬にしてクリアされ、傭兵たちシュルッと地面に吸収されました。

 どさどさと地面の底に落ちた傭兵たちは、おお痛えと立ち上がり、全員、報奨金をもらう列に並びました。

 前にいた男が振り返って言いました。
「あんた、今日逃げた人だろ。」
「なぜ嗤った。」
「あんたが昨日俺を嗤ってくれたからだ。忘れたか。」
「そんなはずはない。俺は今日がはじめてだったんだ。」
「ほう、そうだったのかい。人違いだったかい。」

窓口の係員が、
「今日は行ったり来たりしたから、報奨金と罰金がちょうどとんとんで、帳消しだ。」
と言いました。
「私の今日までの報奨金はどれぐらいたまりましたか。」
百歩は、係員(窓は曇りガラスで相手が見えない)におずおずと尋ねました。
「まだまだ。まだ君の目標の千分の一にも届かない。金額を告げる価値もない。」

 傭兵たちは食事の列に並び、そのあと、あてがわれた寝床に入る列に並びました。元気な者も、怪我した者も。
 そして、ほとんどの者がうすうす気づいていることですが、実は死んだ者さえも、報奨金と食事抜きで寝床に放り込まれ、明日はまた生き返らなきゃいけないのでした。何もかも忘れて。
(続)
posted by tyouseki at 15:45| Comment(0) | TrackBack(0) | ひまつぶメモ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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