2011年05月28日

五十歩と百歩 5 だるまさん戦争(4)【中途半端】

 ある百歩逃げは、逃げに逃げて初めの地点からすでに千歩も逃げていました。もうさんざんに嗤われまくりでした。
 そろそろ戻って、罰金を帳消しにしてプラスちょっと報奨金がもらえるぐらいのところに行こうかな。
 ここから、その百歩逃げは百歩進みとなって、前進を開始しました。振り返っては、追い抜いた五十歩進みたちを「やあい、のろま」とあざわらいました。

 そしてもとの地点に戻ったとき、あと号令は一回だと思いました。一日の回数が決まっていて、傭兵たちはちゃんと数えながら行動しているのでした。
 ですから、百歩は、そのあと一回、百歩進むだけの小さい稼ぎで今日を無事に終わらせるつもりでした。
 ところがそのとき、派手なくしゃみが出てしまって、ダダダンダダン。被弾してしまったのです。

 死んだかと思ったけれど、生きていました。怪我は軽くて、次の「だるまさんがころんだ!」では、停止というわけにはできませんでした。
 なら五十歩行こう。
 そう思って駆け出したのですが、中途半端な怪我だったため、切り良く五十歩というわけにいかず、三十五歩しか進ませんでした。

「ぐわわーん。だるまさんがどんどこしょー!」

 戦場が消え、傭兵たちが消え、突然まっくらになった地上に、三十五歩の男が取り残されました。切りの悪い場所にいると、地下に吸収されないようです。

「おーい」
「おーい、だれかいるのか」
 他にも中途半端がいるようでした。
「おれは三十五歩だ。」
「こっちは六十八歩だ。」
「私は五十一歩です。」

「あのう、五十歩以上の奴は、五十歩で止まればいいのでは?」
「そう思うだろ? ところがダメなのさ。行けるとこまで体が止まらないんだ。」
「それは厄介な。」

「これからどうなるんだ。」
「まずは五十か百にぴったり合わせて終了するように調整しなきゃいけませんね。」
 五十一歩は計算ができる男のようです。

「号令は一回の戦闘に百八回です。そのあいだに私は五十回動いて、そこで被弾し、ちょびっとだけ、つまり歩数が一歩減るようなちっちゃい怪我をするか、でなければ、絶対動けない大怪我をしなくちゃいけません。えー、三十五歩さんは十回動いて、その場でうまく被弾すればいいんです。六十八歩さんは、こりゃ難しい。えー、五回で三百四十か、惜しい。十五回で千二十、だめだ。二十五回で千七百、これですね。」

「ありがとうよ。俺にはとてもそんな暗算はできなかったよ。」
「問題は被弾です。手を振って、撃ってくれるように合図する。そして上手な被弾は、闇夜に霜の降るごとく。」
「なんだそれ。」
「いやあ、冗談。まあ、ちゃんと球筋を読んで、確実に当たるようにするんですよ。」
「できんのか、そんなこと。」
「どうでしょう。私はもう幾晩こうしているのかわからないもの。」
「出来たやつはいるのか。」
「わかりません。昨日までいた人たちは返事がないから、地下へ帰れたか死んでしまったかのどちらかでしょう。」
「死んだらどうなるのかな。」
「地面の底のそのまた底で、おっかないだるまさんごっこに出されるんじゃないかな。」
「うへえ。」
「ねえ、報奨金がたまったらどうなるんだっけ。」
「天に行くんだ。天のだるまさんごっこに出られるんだ。すてきなだるまさんごっこに。」

 このとき、どこかからささやきが聞こえました。
「だるまさんがわらった。わらった、わらった。ふふふふふふふふふふふふふふふふ。」

 だるまさんはたまに寝つけず、こういうささやかな会話を聞いていることがあるのです。
 地面が、ふふふふふふと揺れます。
 ふふふふふふふふふふふふふふふ。小刻みに揺れます。
 中途半端たちは揺れに合わせて、けんめいに体をもぞもぞさせたり転がしたりして、正しい位置にずらしました。

 いちばんカンタンだったのは五十一歩です。たった一歩分ですから。
「できたー。みんなもがんばってー。」
 そう叫んでいなくなりました。
 三十五歩も六十八歩も、そのほかにもいたかもしれない中途半端なみんなも、どうにかして地面の中へと消えていきました。

 背中掻いたら、どっとはらい。

(とりあえず終。なんか、暗い話ばかりできちゃいました。なんでこんな話が湧き出てしまうんだろう。)


posted by tyouseki at 15:59| Comment(0) | TrackBack(0) | ひまつぶメモ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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