2011年06月25日

ベビーシッター チャコ

(なんとなく自分のために書いた童話のようなもの。)

むかし、チャコは犬だったんだって。

僕が赤ちゃんのときもらわれてきた。
僕とおんなじ大きさの仔犬。

僕を見たとたん、尾をふりまわして、僕にすりよって、
僕の顔をべろべろって舐めたんだって。
そしたら僕もチャコに抱きついて、
べろべろべろべろ舐めてやったんだって。

これはいいベビーシッターが来た。
そういって、みんなにこにこ見てたんだって。

でも、僕がちっちゃいとき、チャコは死んじゃったんだって。
そんなの僕は覚えてない。

とにかく、それはウソなんだ。
だってチャコはいまも僕のそばにいるんだよ。
見えないけど、耳のそばで、
ハッハッハっていう犬の息の声で、
「どこにもいかないわ」っていってるよ。

(へ、チャコは本当に死んだんだぜ。俺も覚えてないけど、もう犬なんか忘れちゃえよ。)

チャコは、
僕が何をしてもほめてくれる。
僕が何もしなくてもほめてくれる。
僕はいつもいい子だよ。

(何いってんだ。チャコなんかいねーよ。俺がいつもカンペキってだけだ。)

他の子が先生にほめられて、僕ひとりだけしかられたよ。

なんですかこれは。みんなちゃんとやってきたでしょって、
先生は僕のノートを指でトントンやったよ。
宿題の作文が三行しか書いてないって。

「作文は長さじゃありません。中身が大事。

『ぼくは、はみがきがきらいです。
ぼくは、ハンバーグがすきです。
ぼくは、せかいのひとのしあわせをねがっています。』

すばらしい! ひとつのムダもない。あなたはテンサイだわ。
きっと先生は甘やかしてはいけないと思っているのです。
トクベツにかわいがって、きびしくなさるんでしょう。」

チャコはそう言うのだ。
そうなのか、と僕はなっとくする。

(俺はテンサイなんだ。そうかい、チャコもそう言ってるかい。わかってるじゃねえか。)

「あなたはやさしい。あなたは強い。」

バーカ、弱虫、いくじなしと友達に言われて帰る道々も、
チャコは僕を褒めてくれる。

「やさしいから、強いから、
お前こそバカだとか言わないであげるんですよね。我慢できるんですよね。」

うん、そうなんだ。
僕はやさしいから言い返さない。
僕は強いから、くやしがったりしない。

(俺はくやしかねーよ。バカはあいつらだが、俺は言い返さない。そのーがかっこいい。)

僕が泣いても、チャコは僕を褒めてくれる。

「ときには率直に泣くべきですよ。そう、えらいえらい。純粋な涙はうつくしい。」

そうか、僕は純粋だから、こんなになみだが出るんだね。

(俺はかっこよく泣くぞ。はははは。)

僕の部屋にはおもちゃがいっぱい。
ともだちに自慢しても見に来てくれない。
でもチャコは、ハイセンスだって褒めてくれる。
こういうハイセンスなおもちゃで遊んでいれば、僕はごきげんだ。

(そうとも。俺様はごきげんさ。)

僕は、はみがきが嫌い。だからはみがきなんかしないんだ。

「いいですとも。天才は嫌いなことなんかしなくても。」

僕はハンバーグが大好き。毎日食べてりゃ言うことなし。

「あなたが満足なら、チャコもうれしい。」

ニュースを見たよ。戦争こわい。災害こわい。
世界の人がみんな僕みたいに幸せになればいいのになあ。

「まあ、なんてやさしい人でしょう。チャコはあなたが幸せならそれでいいの。
そうだわ。おんもは危険よ、悪い子がいっぱい。車がいっぱい。
戦争もあるば災害もある。
あなたがケガでもしたらチャコは悲しくて死んでしまいます。
だから、おうちでいい子にしていてね。」

そうだね、僕はチャコのために、なるべくうちでいい子にしているね。

(ふふん。君子危うきに近寄らず。俺はいいこちゃんにしてるよ、ベイビー。)

ところでさあ、

ときどき、鏡の中に知らないおじさんがいるんだ。

すると、チャコは、声をひそめて言った。

「この部屋にはときどき幽霊が出るんです。
でも心配しないで。あれは怖いものではありませんから。
さびしくて鏡の中に現れるだけのものですよ。
にっこりしてあげれば、幽霊は喜びますよ。」

そうなのか。僕が幽霊にほほえんでみせると、
幽霊もほほえむ。
僕は幽霊にやさしくしてあげなくちゃ。

「そうですとも。あなたはとってもやさしい人。」

(俺ってやさしい。サイコー。)


春だよチャコ

夏だよチャコ

秋だよチャコ

冬だよチャコ


晴れだよチャコ

雨だよチャコ

雪だよチャコ

そしてまた晴れだよチャコ


ねえチャコ。
僕、ふあんなんだ。
みんなが僕を仲間外れにしてるみたいだよ。

(なんでだよ。どうして俺は嫌われてるんだ。俺がかっこいいからやいてるとかかな。)

「ヤキモチですよ。
ほっとけばいいの。ヤキモチ焼きなんか。
あなたはあなたのまま、今のまま、何一つ変えなくていいんです。」

そうだよね。僕はこのままでいいんだよね。ずっと。

(俺はこのままでいいさ。バカの機嫌なんかとれねえよ。人間どうせいつか死んじまうんだし。)

チャコ。チャコ。

どうしたの。
このごろ返事してくれない。

友人に電話をかけてみる。
チャコはそっちに行ってない?

「いいかげんにしろ。もう電話しないでくれ。」

なんだか冷たいよ。
どうしてだろうチャコ。
おかしいよチャコ。

(おかしいな。俺。おかしいな。俺。)

チャコ。チャコ。
いないなあ。

外に出てみる。
街行く人が僕をよける。
おまわりさんが俺を呼びとめる。

「ちょっとちょっと、じいちゃん、どこいくの。」
「僕のだいじなチャコがいなくなったんです。」

(俺、さむい。腹減った。)

おまわりさんは、
「まあまあ」と笑って、
「家で待っていなさいよ。じき帰って来ますよ。
これでも食べて、あったかくして寝なさいよ。」
って、肉まんひとつくれたけど。

(なんかにやついて言いやがったよな。むしゃむしゃ。歯がないとよく噛めねーな。)

チャコ、チャコ。

あの幽霊が、いつのまにか、すごくおじいさんになってるよ。
そいでもって、
幽霊おじいさんは泣いているんだよ。

僕がほほえみかけても、
(俺が笑いかけても、)
幽霊は泣いてばっかりいるよ。

かわいそうに、かわいそうにって。
(誰のことかな、かわいそうにって。)

かわいそうにって。


posted by tyouseki at 19:22| Comment(0) | TrackBack(0) | ひまつぶメモ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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