2011年07月21日

【ストライクがストライクゾーンを作り続ける】

■ えーい、これはどうだ、これは通るか
 
 言葉の魅力はさまざまあるわけだが、説明しにくい領域がある。
 たとえば、単語の語感の魅力(意味内容ではない)のような説明しにくい魅力領域は、結局は人の好き好きでしかない、と、説明が放棄されがちだ。

 だが、説明しにくいとしても、そういう魅力はちゃんとある。

 こうした基準の不確かな領域において、「それでもある程度は人と一致する」と信じなければ、表現の多くは成り立たないはずだ。

「えーい、これはどうだ、これは通るか」

 詩歌は、こんな感じに投球されることがある。
(自分の例はおこがましいが、少なくとも私は、短歌を送り出すとき、しばしば、「えーい、これはどうだ、これは通るか」と思った。これは、やけっぱちではなくて、確信はあるが説明できないという不確かさからくる掛け声だった。)

 「ある程度は人と一致するはず」という、その不確かな確信のストライクゾーンは、確定せずに流動し、新たなストライクを受け入れるたびに、確認され続けるようなものではないか、と感じている。

(当たり前だと思う方もいるはずだが、少なくとも短歌では、必ずしも多数派とはいえない。短歌には野球のようなストライクゾーンがあらかじめ決まっていて、そうでなければ評価できないと思っているらしい人によく出会う。この文は、野球と異なるストライクゾーンがあるという説明の試みだ。)

 不確定なストライクゾーンが形成される例として、ある単純な言葉遊びをあげる。

■ 言葉遊びをしてみた

「ザブトンの中にザブンがある」
というような組み合わせを探す遊びを、二人の息子たち(詩歌に興味のない一般の若者。言葉遊びは好き)とやってみた。

「枕の中に蔵がある」
「桜にもクーラーにも蔵はある。二文字はダメだろ」
「はだかんぼうの中には感冒と暖房がある」
「つまんね」
「アナグラムの中に穴ぐらがある」
「クラはあきたぜ」
「サクランボに乱暴」
「トランプにランプ」
「ありがち」
「遣唐使にケント紙」
「ううん。やや、だなあ」
「ベン・ジョンソンに便所」
「下ネタはつまらん」
「空海の中に空母があるってどっかで読んだ」
「ふーん」
「カッコの中に過去がある。二文字でもまあまあ?」
「『二文字でもまあまあ』という例外的OK」
「バチカンの痴漢」
「ややキタ、ややシモ」
「バチカンのバカチン」
「ダメ」
「レインボウの中に陰謀」
「やや。でも一時間やってりゃ誰でも思いつきそう」
「長い言葉だったらどうよ。スルターンオマールアリサイフディーンモスクには財布があるとか」
「なにそれ。シラネー」

■ 投げ込んではじめてわかるストライクゾーン

sutoraiku.jpg 

 ここでおもしろいのは、言葉遊びより、この遊びのルールというか、価値観が形成されてゆく点だ。

 つまり、ザブトンとザブンのような言葉の組み合わせには魅力に優劣があると息子たちは感じたらしい。
 だからすぐさま、「二文字はダメ」「下ネタはダメ」などとルールを作り、その価値判断を共有して、より優れたものを模索した。
 まるで、新しいボール投げのようなゲームを作っているようだ。

 そのルールの作り方にも興味深い点が三つある。

 ひとつは、この価値判断(ルール)は、とりあえずアウトから決まりはじめるらしいことだ。
 すなわち、「下ネタはダメ」などと、ダメな球筋のものが出現すると、ダメなものを除外する形で、はじめのうちはルールが共有されること。

 もうひとつは、この遊びのストライクゾーンもまた、ストライクらしいもの来たときはじめて、ああそれはストライクの一つだ、と認識される性質のものだということ。

 三つ目は、どんなに「こういうのはまあまあ」「けっこういい」というストライクが来ても、「こういうのこそが絶対に良く、他はダメだ」と、ストライクゾーンを明確に規定して他を排除するルールは作れないことだ。

■まだ見ぬストライクへの期待

 この遊びは、まだ見ぬストライクへの期待で成り立っていると思う。
 これは野球のストライクゾーンのようなものとはまったく異質である。

 この遊びのストライクゾーンは、ストライクが決まるごとに見出されてゆくのであって、ここをこう通ればOKなどとあらかじめ言えない。
 さっき良かったストライクも、「クラはあきた」というふうに価値を下げることがある。
 次のストライクが投げ込まれることによって、ストライクゾーンとその球種が作られ続けるのだ。

 ストライクがストライクゾーンを作り続ける。言葉の世界には、期待が切り開いて行く領域がある。


posted by tyouseki at 18:35| Comment(0) | TrackBack(0) | ばるばろ(短歌鑑賞) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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