2012年03月11日

【短歌の「例えば」の位置って?】

■1 「例えば」の位置がふと気になった

「真ん中に『例えば』がある短歌ってあまり見たことないな」と、突然思った。
「例えば」の使用例で最初に思い浮かぶのは、

たとへば君 ガサッと落葉すくふやうに私をさらつて行つてはくれぬか 河野裕子

だが、多いのは第4句のアタマ(下の句のはじめ)での使用例じゃないかな、という気がする。

さわがしき中に酒をのむ悦楽のたとへば貝にこもる潮音 佐藤佐太郎

この位置の使用例が多いんじゃないかなー。

こんなときのためのデータベース「闇鍋」だ。早速検索してみた。

■2 第4句のアタマに使う例が多い

すると、思った通りだ。結論を言えば、使用位置にはあきらかに偏りがあった。
「例えば」は、圧倒的に第4句のアタマに使われていて、第3句での使用はゼロだった。

ちょっと面白くないか?
せっかくだから、以下にもう少し詳しく抽出データを見てみよう。

■3 データベースの概要

データベース「闇鍋」は、15年ほど前から作っているもので、私の好みが反映しないように、選ばずにぽんぽん投げ込んでいるから、少しぐらいは信頼できる。

本日の闇鍋データ総数77321
うち短歌45638、俳句20793、川柳10532 ほか
(およその詩型構成比 短歌9:俳句4:川柳2)

なお、「闇鍋」データにはときどき間違いがある。
ここでは「例えば」の使われ方を見るだけ、と割り切り、転載はしないでほしい。

■4 用例を検索−−俳句川柳では「例えば」の用例が少ないぞ

 短歌の中での使用位置について考えるための検索だったが、その前に、俳句川柳の使用例が少ない、ということもわかったので、書いておく。

「例えば」「たとえば」「たとへば」「例へば」「譬えば」のいずれかを含むデータを検索してみたら、
73歌句あったが、その詩型構成は、

 短歌66、俳句5、川柳1 その他1

だった。圧倒的に短歌である。

収録作品全体の詩型の構成比を考えると、なんらかの訳があって「例えば」は俳句・川柳ではあまり使われないのだと思う。
「例えば」は、わざわざそう言わなくても済む言い回しができるから、俳句川柳では文字数節約のために省かれる、のだろうか?
終わりのほうに、俳句川柳の用例をあげておくので、ぜひ吟味してほしい。

※なお、上記とは別に、「たとふれば」「例ふれば」「たとうれば」「例うれば」の用例は16(短歌14、俳句2)ある。

■5 第4句アタマの使用例が多い

「例えば」を含む短歌を、「例えば」の使用位置によって細かく分けてカウントしたら、以下のとおりだった。

※極端な破調歌がいくつかあった。何度か唱えてみてリズムから位置を判断した。(笑)
※7音の場所では、句の後半での使用が可能である。
 5音のところでも後半に置くことは可能(「ああたとえば」などと字余りになるだろうが)だが、用例ナシ。

A初句 8首
B第2句アタマ 8首
C第2句後半 8首
D第3句 ナシ
E第4句アタマ 31首(ダントツ!)
F第4句後半 10首
G第5句アタマ 1首
H第5句後半 ナシ

■6 上記分類の各々の例歌

A 初句 8首
たとへば父の冤罪の眸(まみ)愛すべし二重封筒のうちの群青 塚本邦雄
例えば 羊のようかもしれぬ草の上に押さえてみれば君の力も 平井弘


B 第2句アタマ 8首
未来とはたとえばこんなところにも二つに割れる赤いピーマン 俵万智
雨はやみたとえばひとの声のするくろい受話器のような夕闇 江戸雪


C 第2句後半  8首
冬を待つこころたとへば晴天の陽を貯ふる雲のしづけさ 大塚寅彦
たもち得ぬ才はたとへばうまざけの破れし甕にも似たるこの人 山川登美子


D 第3句 該当ナシ

E 第4句アタマ 31首(多いので例歌も多くあげよう)
やさしくて怖い人ってあるでしょうたとえば無人改札機みたいな 杉崎恒雄
ひそひそと秋あたらしき悲しみこよ例へばチャップリンの悲哀の如く 中城ふみ子
欲望はうつむきがちにくるものを たとえば夏代さんというひと 村木道彦
月よ みなおもちゃになって遠ざかる例えばあたしの自転車どろぼう 高柳蕗子
(拙作もあった!

F 第4句後半 10首
押しこんでぎしぎしかけたかけがねがひかるたとえば春の砂場に 佐藤弓生
散り終えた黒き花弁を踏みしめる僕は、例えば閉めかけの螺子 中島裕介


G 第5句アタマ 1首
はまぐりを食む歯ざわりやおぼろなるもの美しきたとえば百済 三枝ミ之


■7 イナイイナイ・バ

・「例えば」は直喩または例示の前触れであって、多くは省略可能だが、続く言葉に興味を抱かせる。
つまり、「例えば」は、イナイイナイ・バアだ。ちょっと遮って期待させるのだ。
それを越えた向こうには、期待に応える意外な展開があり、読者は、うーんそう来たかと納得するような感じで、楽しんで読む。

■8 Aの初句用例とその他の用例の比較

(1)上記のように細かく分けてはみたが、Aとその他との二つに分ければ十分だったかもしれない。

(2)初句の用例だけは、見た目の構造が違う。
 「例えば」は通常、直喩でも例示でも、
 「◯◯◯◯◯は例えば□□□□□だ」
というふうに、◯◯◯◯◯と□□□□□の間に置かれるが、初句に使うということは、必然的に、
 「例えば◯◯◯◯◯は□□□□□だ」、または、「例えば□□□□□だ◯◯◯◯◯は」になる。

(3)もう一つの違いは、振りかぶり≠フ効果である。
「例えば」を初句に使うと、振りかぶるように強く響く。読む側は、なにごとかと驚きながら期待をそそられる。
そのうえ、「例えば」を5音の句に使う場合は字余りか字足らずになりやすいけれど、それが「破調なんぞかまってられるか」という迫力をも添えて効果的になることがある。

(4)第3句の用例がない理由はそれに関係があるかもしれない。第3句では初句のような「振りかぶり」効果がなくて、その意味では破調にする効果が出ない。だから第3句の使用は無意識にも避けるだろう。

(5)7音の句での使用は、振りかぶり効果がなく迫力もないが、破調になりにくい。
「たとえば」の4音のイナイイナイ効果が自然に働いて、この先どう展開するのか、ちょっと楽しくじらされつつ期待が高まるのだ。

(6)4句に「例えば」が置かれるのことが多いのはなぜか。
 単純に、まんなかへんだから上下にそれなりの文字数が使ええて、バランスがとりやすいからではないか。
そして、2句の例、5句の例では、そのアンバランスによる効果も少しおもしろく感じられる。

■9 「例うれば」との比較−−古風でスロー

(1)「たとふれば」「例ふれば」「たとうれば」「例うれば」は、別途検索してみた。
その用例は、16(短歌14、俳句2)あった。
意味は同じだから混ぜて検索すべきかとも思ったが、私には、「例えば」と「例うれば」がなんだかすごく違う感じがして、あえて別にしたのである。

(2)「例うれば」は古風でのんびり。ときにもったいぶった感じ
「例えば」との見た目の違いは、1音多いだけだが、言い回しが古風でスローな印象になる。言葉が読者の頭に流れ込む速度がぐぐっと遅くなる。

たとふれば明くる皐月の遠空にほのかに見えむ白鴿(しろはと)か君 窪田空穂

口調がのんびりしている。使い方によっては、とぼけた感じを醸し出すこともできそうだ。

冒頭にあげた、

たとへば君 ガサッと落葉すくふやうに私をさらつて行つてはくれぬか 河野裕子

と比べるとおもしろい。

(3)テンポが遅くなるだけで、イナイイナイ的な期待効果は「例えば」と同様にある。

(4)使用位置が異なる。
短歌14首のうち使用位置は以下のとおり、初句と3句、つまり5音句にはめ込む例が多い。

A初句 8首
D第3句 4首
E第4句アタマ 1首
F第4句後半 1首(用法が異なる)
その他の位置のものはなかった。

例歌もあげておく。
A初句 8首
たとふれば心は君に寄りながらわらはは西へでは左様なら 紀野恵
たとうれば海鳴り冥き日本海「藤原さん、お薬、三日分です」 藤原龍一郎


D第3句 4首
さわやかに鳴くなる蛙たとふれば豆を戸板に轉ばすがごと 長塚節
この今の止まりくれぬかたとうればタクシーに手を揚ぐるがごとく 中野昭子


E第4句アタマ 1首
絃と指たたかふごとき終曲はたとふれば今日午後のわが生 岡井隆

F第4句後半 1首(用法が異なる)
嫁して祖母七十五年ひともとの樹にたとふれば両手にあまる 時田則

■10 まとめ

「例えば」はイナイイナイ・バアのように、いったん先を隠すように期待をそそる効果がある。
使用位置に偏りがあり、「例えば」は圧倒的に第4句のアタマの用例が多い。
第3句には使われず、初句に使う以外は、7音の句に入れる。
「例えば」を初句に使う場合は、破調効果が出ることがある。

「例うれば」は、「例えば」と異なり、もっぱら5音の句に使う。
「例うれば」はのんびり古風な感じ。イナイイナイバア効果は「例えば」と同じ。

■11 参考 俳句川柳の用例

おもしろいので、全部書いておこう。

「例えば」の用例

初句
たとえば一位の木のいちいとは風に揺られる 阿部完市
たとへばのはなし素甘は春の味 仁平勝
たとえば愛たとえば象がひざまづく なかはられいこ
(川柳)

第2句
たましひのたとへば秋のほたる哉 飯田蛇笏
身のうちのたとえば螢たとえば火 大井恒行※
春愁のたとへば0で割るごとし 金子 敦

※第2句・第3句に使用。

第3句のみの用例ナシ

「例うれば」の用例 初句の例しかない。

たとふれば独楽のはじける如くなり 高浜虚子
例ふれば恥の赤色雛の檀 八木三日女

posted by tyouseki at 04:23| 短歌俳句川柳データベース闇鍋 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする